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二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

可愛いあの子になれないから

 

可愛いあの子になれないから、

私は泣きながら努力する。

 

手に入れたい、と思っていて、

私ずっと受け身だった。

 

手に入れたいなら、それ相応の努力しなきゃ。

 

このままだと私は一生あの子に勝てない。

 

自己満足

 

君の好みじゃないかもしれないけど、

 

猫派だし

焼き鳥は塩派だし

ラーメンの麺も細麺の方が好きだし

同じ喫煙者だし

趣味も合うし

裁縫できるし

話なんてほら、尽きないでしょ

 

私だったら仕事に口出ししないし

帰ってきたらご飯作ってあげられるし

 

合コン行ってもいいし

女友達と飲んでも何も言わないし

私もちゃんと稼ぐし

 

 

ね、だから、私にしとけば?

きっとうまくいくよ、私たち 。

 

私にしておきなよ、きっと、幸せにするから。

私にだけ、弱み見せてもいいから。

 

 

AM 2:17

「あ〜飲みすぎた〜。」

「部屋汚いけど適当に座って。」

「なんか飲む〜?」

「あ、私ほろよい。」

 

なーちゃんの彼氏とその友達と四人で飲んだ帰り、流れでなーちゃんの彼氏の家にみんなで行くことになった。

 

私はずっと酔わないように計算してちびちび飲んでいた。

 

なーちゃんの彼氏の友達はヒロって呼ばれていて、恐る恐る「ヒロさん?」って呼んだら「ヒロでいいよ」と綺麗な歯並びを見せられた。

 

なーちゃんとその彼氏はずっとラブラブしていて、私たち二人はどこか居心地の悪さを感じていた。

 

「ちょっと煙草。」

「あ、私も〜。」

 

ヒロが煙草を吸いにベランダに出たついでに私もついていった。

キャスター5ミリ。

 

「あ、一緒だ。」

「ほんとだ。煙草なんて吸うんだ。」

 

さっき店で吸ってたっけ?と突かれて少しだけドキッとした。頭いいんだな、となんとなく思った。

 

ベランダにはサンダルが一足しかなくて、それを二人で片足ずつつっかけた。

 

「このあとどうすんの〜?」

「終電なくなっちゃったし、どうしよっかな。」

 

ヒロも居心地の悪さを感じていることを確信していたから、わざとらしく困った表情をした。

 

「俺もどうしよっかな〜」

 

こういう時、男女は無言で駆け引きをする。

私たちは嘘つきだ。

 

部屋に戻るとなーちゃんと彼氏は寝ちゃっていて、私はちょっと残念だった。

 

このまま放っておいたまま、さすがに抜け出せないと思ったのか、私たちは片付けをして、寄り添って目を閉じた。

 

たぶんこのまま目が覚めて、連絡先も知らずに別れるだろう。でも、また会える。いつでもどこでも、気持ちは繋がっているんだから。

 

私は彼のSNSの画面を見ながら、微笑んだ。

 

おかえり

ただいま。

おかえり。ごはんいる?

今日は遅かったんだね。

 

「ああ、うん」と下手な濁し方をする彼を、嘘が下手だなあ、と思いながらそういうところも好きだなとか思ってみる。

 

夫婦なんて良く分からない。

あんなに舞い上がって提出した婚姻届も、今ではただの紙切れにしか思えない。

 

それでも私はやっぱり彼のことが、世界で一番好きだと思う。世界で一番彼のことを愛しているのは、私だ。

 

彼は私のことを世界で一番愛してはいないと思う。それでも彼は私のものだ。

ここにきて、あの紙切れ一枚が随分重いものに感じた。

 

ただいま、おかえりって言い合うだけでいい。

たまに連絡が返ってこなくても、平気だ。

私たちはもう恋人同士ではないのだから。

 

好きかどうかわからなくていい、情だと思われてもいい。

ずっと私に心配されていて。ずっと心配かけていて。

 

あの紙切れに書いてあった、妻という表現がくすぐったくて、思い出してずっとそわそわしていた頃は、幻だった。

 

薄れていく記憶の中で、彼のシャツから、知らない銘柄の煙草の匂いがして、目を閉じた。

 

「憂、燦々」より

 

揺れる電車の中で二人並んで、ガラスに映る彼を見た。

たぶん、彼がいるのは、現実の私の隣なんかじゃなくって、ガラスの向こう側の私の隣だ、と思った。

 

そしたら急に不安になってしまって、振り返ったらちゃんと彼はビールを飲んでいた。

それが嬉しくって堪らなくなって、目をうるませたら、「なんで泣いてんの」とまた言われてしまった。

 

その時、さっきまで聴いていた、声が高いあのバンドの「離さないでいてくれるなら いつでも許してあげるから」という、超くだらない歌詞を思い出してしまって、今度はちゃんと涙が出た。

 

彼はもう呆れたようにため息をついて、またビールを飲み始めた。

底に沈む、もう浮き上がってこないビールの泡みたいな気持ちになって、しゅわしゅわした。

未だにビールは苦くて飲めない。

 

「ずっと傍にいて」なんて、ダサくて言えない。重いなんて思われたら、それこそ意味なくなってしまう。

 

あのバンドは今では結構有名になったな、とか思って、久しぶりに曲を聞いてみたら、やっぱりくだらなくて悲しくて、またこっそり泣いてたら、彼がふと私の頭を撫でて、聞こえるか聞こえないか微妙な声で「大丈夫だから」と言った。

いつの間にか、ビールの中身は無くなっていた。

 

 

一つになれないなら、せめて二人で居ようよ

 

 

壁の薄いアパートにて

これでもう、会うのは最後になるかもしれない

 

漠然とそう思った。

そう思ったら急に寂しくなってしまって、

一緒に並んで寝ていてもどこか遠くにいるように感じて、無性に涙が出た。

 

出会いがあったということは、必ず別れも来る。わかってはいたけれど、早かった。

私は彼に布団をすべてかけた。震えるほど寒くなっても、こうしていたかった。

彼に全部尽くしてきた。

やれるだけのことはやったし、今更後悔なんてない。

 

だけど、

 

彼のことを一番好きだったのは私だったし、大切にしていたのも、尽くしてあげたのも、辛い時に優しい声をかけてあげたのも私だった。

私だったはずなのに。

 

彼は私が尽くす度に離れていくような気がした。

 

振られるくらいなら、自分から居なくなった方がマシだ。嬉しかった合鍵も、一緒に飲んだ苦いコーヒーも、イルミネーションも、あの路地裏にあるラーメンも、全部、忘れよう。

 

結婚すると思っていた。

結婚するってどういうことだったんだろう。

 

私は声を殺して泣き、苦しくなりながら、

彼に気付かれないように、キスをした。

 

最後の最後まで、強がってごめんね。さようなら。

 

大丈夫、

きっと全部、愛おしかったものすらも忘れられる。だって彼は愛おしいなんて思っていなかっただろうから、たぶん。

 

大丈夫、大丈夫だよ

視界が歪むなか、私はコートとバッグを手に取り、合鍵をポストに入れ、静かに居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居なくなっていた。

朝起きたら、何かが変わっていた。

 

足りないものが幾つかある。それにすぐ気づいた。

もしかしたら、と思っていたけど、こんなに早くなるとは。ポストを開けたら、やっぱり合鍵はあって、合鍵に付いていた、ダサいキーホルダーは居なくなっていた。

 

薄々気づいてた。でもそれがプレッシャーだった。

 

でも、こんなに寂しいと思っているのは自分でも意外だった。

 

これからどうやってこの穴を埋めようか。

どうやったら君のシャンプーの匂いが思い出せなくなるようになるのか。

 

考えながらベッドに横になった時、もう二度とわからなくなってしまうだろう君の髪の匂いがした。

 

 

渇望

溢れてしまった。

生きててたまにある、絶望感。

 

私はいつも自分の感情に蓋をして、

いつも誰にも見せないように、

見せるふりして繕って、隠してきた。

 

その人を信用していない、といえばそうなのかもしれない。私は親のことも友達のことも、好きな人のことも、信用していないのかもしれない。人の気持ちなんてわからない。

 

自分の気持ちは自分にしかわからない。

自分のキャパは自分にしかわからない。

 

自分からSOSを出さないと、いつか溢れることはずっと前からわかっているのに、もう癖になって、それはいつか私を苦しめていた。

 

吐き出せなかった、どうしても。

自分の弱いところを見せたところで、何も変わらないことを知っていた、自分に絶望して欲しくなかった。私はいつも、私であろうとしていた。

 

その結果、すべての怒りや悲しみ、それらの負の感情が大きくなりすぎ、中身が段々と溢れていく。

 

中身を移し替える余裕もなく、ボロボロとだらしなくこぼれていき、やっと蓋がしまるくらいになったときには、私はもう全てを諦め、絶望し、目には光がなくなっていた。

 

私はいつもこうなってしまう。

両親に心配はかけたくない、友達や好きな人に重いと思われたくない、いつもの私でいなければいけない。

 

だからもしこうなったとき、誰も気づいてはくれないのだ。

 

その時私は、独りだったのだとまた絶望する。

 

自分の人生の絶望は、自分自身で救うしかない。誰も気づいてはくれない。助けてはくれない。

 

独りでも生きていけるようになりたい。

 

そして私はまた、詰め放題の時のビニール袋みたいに、指でぎゅうぎゅう引き伸ばしながら、明日からも生きていくんだろう。

 

途中でちぎれても、もうそこには誰もいない。

 

私はただ、抱きしめてほしいだけだった。