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二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

嫌いだ。

 

一眼持って出かけてそこらへんの踏切とか君の笑顔が浮かぶ影とかそんな写真撮って、なんかかわいげなイラスト書いて、イラストレーターなんて名乗っちゃって、あのバンドのメンバーと付き合ってる雰囲気漂わせて、Twitterだって世界観。全部、持ってないんだ。全部いらないけど、全部私が欲しかったものだったんだ。

 

髪を切ったことを後悔するかどうか決めるのはお前じゃなく、私だ。少なくとも彼のために切った髪と枝毛は後悔なんてしてないんだろう。

 

好きか嫌いかで問われたら嫌い、でも君のことは世界で一番私が愛してる自信あるんだよ

 

可愛いあの子になれないから

 

可愛いあの子になれないから、

私は泣きながら努力する。

 

手に入れたい、と思っていて、

私ずっと受け身だった。

 

手に入れたいなら、それ相応の努力しなきゃ。

 

このままだと私は一生あの子に勝てない。

 

自己満足

 

君の好みじゃないかもしれないけど、

 

猫派だし

焼き鳥は塩派だし

ラーメンの麺も細麺の方が好きだし

同じ喫煙者だし

趣味も合うし

裁縫できるし

話なんてほら、尽きないでしょ

 

私だったら仕事に口出ししないし

帰ってきたらご飯作ってあげられるし

 

合コン行ってもいいし

女友達と飲んでも何も言わないし

私もちゃんと稼ぐし

 

 

ね、だから、私にしとけば?

きっとうまくいくよ、私たち 。

 

私にしておきなよ、きっと、幸せにするから。

私にだけ、弱み見せてもいいから。

 

 

AM 2:17

「あ〜飲みすぎた〜。」

「部屋汚いけど適当に座って。」

「なんか飲む〜?」

「あ、私ほろよい。」

 

なーちゃんの彼氏とその友達と四人で飲んだ帰り、流れでなーちゃんの彼氏の家にみんなで行くことになった。

 

私はずっと酔わないように計算してちびちび飲んでいた。

 

なーちゃんの彼氏の友達はヒロって呼ばれていて、恐る恐る「ヒロさん?」って呼んだら「ヒロでいいよ」と綺麗な歯並びを見せられた。

 

なーちゃんとその彼氏はずっとラブラブしていて、私たち二人はどこか居心地の悪さを感じていた。

 

「ちょっと煙草。」

「あ、私も〜。」

 

ヒロが煙草を吸いにベランダに出たついでに私もついていった。

キャスター5ミリ。

 

「あ、一緒だ。」

「ほんとだ。煙草なんて吸うんだ。」

 

さっき店で吸ってたっけ?と突かれて少しだけドキッとした。頭いいんだな、となんとなく思った。

 

ベランダにはサンダルが一足しかなくて、それを二人で片足ずつつっかけた。

 

「このあとどうすんの〜?」

「終電なくなっちゃったし、どうしよっかな。」

 

ヒロも居心地の悪さを感じていることを確信していたから、わざとらしく困った表情をした。

 

「俺もどうしよっかな〜」

 

こういう時、男女は無言で駆け引きをする。

私たちは嘘つきだ。

 

部屋に戻るとなーちゃんと彼氏は寝ちゃっていて、私はちょっと残念だった。

 

このまま放っておいたまま、さすがに抜け出せないと思ったのか、私たちは片付けをして、寄り添って目を閉じた。

 

たぶんこのまま目が覚めて、連絡先も知らずに別れるだろう。でも、また会える。いつでもどこでも、気持ちは繋がっているんだから。

 

私は彼のSNSの画面を見ながら、微笑んだ。

 

おかえり

ただいま。

おかえり。ごはんいる?

今日は遅かったんだね。

 

「ああ、うん」と下手な濁し方をする彼を、嘘が下手だなあ、と思いながらそういうところも好きだなとか思ってみる。

 

夫婦なんて良く分からない。

あんなに舞い上がって提出した婚姻届も、今ではただの紙切れにしか思えない。

 

それでも私はやっぱり彼のことが、世界で一番好きだと思う。世界で一番彼のことを愛しているのは、私だ。

 

彼は私のことを世界で一番愛してはいないと思う。それでも彼は私のものだ。

ここにきて、あの紙切れ一枚が随分重いものに感じた。

 

ただいま、おかえりって言い合うだけでいい。

たまに連絡が返ってこなくても、平気だ。

私たちはもう恋人同士ではないのだから。

 

好きかどうかわからなくていい、情だと思われてもいい。

ずっと私に心配されていて。ずっと心配かけていて。

 

あの紙切れに書いてあった、妻という表現がくすぐったくて、思い出してずっとそわそわしていた頃は、幻だった。

 

薄れていく記憶の中で、彼のシャツから、知らない銘柄の煙草の匂いがして、目を閉じた。

 

「憂、燦々」より

 

揺れる電車の中で二人並んで、ガラスに映る彼を見た。

たぶん、彼がいるのは、現実の私の隣なんかじゃなくって、ガラスの向こう側の私の隣だ、と思った。

 

そしたら急に不安になってしまって、振り返ったらちゃんと彼はビールを飲んでいた。

それが嬉しくって堪らなくなって、目をうるませたら、「なんで泣いてんの」とまた言われてしまった。

 

その時、さっきまで聴いていた、声が高いあのバンドの「離さないでいてくれるなら いつでも許してあげるから」という、超くだらない歌詞を思い出してしまって、今度はちゃんと涙が出た。

 

彼はもう呆れたようにため息をついて、またビールを飲み始めた。

底に沈む、もう浮き上がってこないビールの泡みたいな気持ちになって、しゅわしゅわした。

未だにビールは苦くて飲めない。

 

「ずっと傍にいて」なんて、ダサくて言えない。重いなんて思われたら、それこそ意味なくなってしまう。

 

あのバンドは今では結構有名になったな、とか思って、久しぶりに曲を聞いてみたら、やっぱりくだらなくて悲しくて、またこっそり泣いてたら、彼がふと私の頭を撫でて、聞こえるか聞こえないか微妙な声で「大丈夫だから」と言った。

いつの間にか、ビールの中身は無くなっていた。

 

 

一つになれないなら、せめて二人で居ようよ

 

 

壁の薄いアパートにて

これでもう、会うのは最後になるかもしれない

 

漠然とそう思った。

そう思ったら急に寂しくなってしまって、

一緒に並んで寝ていてもどこか遠くにいるように感じて、無性に涙が出た。

 

出会いがあったということは、必ず別れも来る。わかってはいたけれど、早かった。

私は彼に布団をすべてかけた。震えるほど寒くなっても、こうしていたかった。

彼に全部尽くしてきた。

やれるだけのことはやったし、今更後悔なんてない。

 

だけど、

 

彼のことを一番好きだったのは私だったし、大切にしていたのも、尽くしてあげたのも、辛い時に優しい声をかけてあげたのも私だった。

私だったはずなのに。

 

彼は私が尽くす度に離れていくような気がした。

 

振られるくらいなら、自分から居なくなった方がマシだ。嬉しかった合鍵も、一緒に飲んだ苦いコーヒーも、イルミネーションも、あの路地裏にあるラーメンも、全部、忘れよう。

 

結婚すると思っていた。

結婚するってどういうことだったんだろう。

 

私は声を殺して泣き、苦しくなりながら、

彼に気付かれないように、キスをした。

 

最後の最後まで、強がってごめんね。さようなら。

 

大丈夫、

きっと全部、愛おしかったものすらも忘れられる。だって彼は愛おしいなんて思っていなかっただろうから、たぶん。

 

大丈夫、大丈夫だよ

視界が歪むなか、私はコートとバッグを手に取り、合鍵をポストに入れ、静かに居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居なくなっていた。

朝起きたら、何かが変わっていた。

 

足りないものが幾つかある。それにすぐ気づいた。

もしかしたら、と思っていたけど、こんなに早くなるとは。ポストを開けたら、やっぱり合鍵はあって、合鍵に付いていた、ダサいキーホルダーは居なくなっていた。

 

薄々気づいてた。でもそれがプレッシャーだった。

 

でも、こんなに寂しいと思っているのは自分でも意外だった。

 

これからどうやってこの穴を埋めようか。

どうやったら君のシャンプーの匂いが思い出せなくなるようになるのか。

 

考えながらベッドに横になった時、もう二度とわからなくなってしまうだろう君の髪の匂いがした。