二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

ミナコ・アズサ

ミナコ(20)

 

「今度夕飯、一緒に作ろうよ」

いや、お前彼女いるだろ

 

だから私はお前のこと絶対好きになんかならない

もしそうなっちゃったら自分が可哀想

 

いつもいつも

どうして私は変な男ばっかり寄り付いて来んのかな、彼女いるってことは私は二番目でしょ

 

私は誰かの一番になれればいいの

それだけでいいんだけど

 

多くは望まないからさ

絶対に私を幸せにしてよ

一番になれればいいの

 

 

 

アズサ(21)

 

「今度、料理作ってあげるね」

どんな気持ちで言ってるわけ?それ。

 

このセリフを言われたあと、私はフラれる。

どういうつもりで言ってるわけ?

あんだけ裏で待ってる、とか言ってたくせに

いざ言うと今はいらないなんて馬鹿みたい

お前のコンビニじゃねえんだよ

 

何でいつもこうなのかな

健気な人ほど損をする

尽くせば尽くすほど損をする

 

イケそう、ヤれそう、デキそう

 

幸せになりたいだけなのに

追いかけても追いかけても

追いつかない

一番になりたい

多くを望んではないんだよ

 

ああ、ほんと、幸せになりたい

 

 

髪を切った

 

髪を切った。

君があの時言った、ショートヘアが好き、という言葉に私はまんまと騙され、髪を切った。

 

思いのほか気に入っているし、君も褒めてくれたね。

 

でも今や君はどう?

あっちへふらり、こっちへゆらり

 

私はもうそんな不安定な芯を支えられずに、私の心はポキポキ少しずつ折れていった。

 

だから今は思う。

髪を切ったのは、君のためじゃなくて、私自身のためだ。

強がりでもなんでもない。

 

気分はどう?

君はいつも 幸せになりたい なんて言っていたけど

 

私じゃダメだった?

私の何がダメだった?

 

努力すら報われない、私を君はどう思う?

 

お願いだから優しくしないで、

適当にあしらって。

 

もう、二度と会いたくない。

そんなこと言われた気分はどう?

 

自惚れんなよ

 

 

嫌いだ。

 

一眼持って出かけてそこらへんの踏切とか君の笑顔が浮かぶ影とかそんな写真撮って、なんかかわいげなイラスト書いて、イラストレーターなんて名乗っちゃって、あのバンドのメンバーと付き合ってる雰囲気漂わせて、Twitterだって世界観。全部、持ってないんだ。全部いらないけど、全部私が欲しかったものだったんだ。

 

髪を切ったことを後悔するかどうか決めるのはお前じゃなく、私だ。少なくとも彼のために切った髪と枝毛は後悔なんてしてないんだろう。

 

好きか嫌いかで問われたら嫌い、でも君のことは世界で一番私が愛してる自信あるんだよ

 

可愛いあの子になれないから

 

可愛いあの子になれないから、

私は泣きながら努力する。

 

手に入れたい、と思っていて、

私ずっと受け身だった。

 

手に入れたいなら、それ相応の努力しなきゃ。

 

このままだと私は一生あの子に勝てない。

 

自己満足

 

君の好みじゃないかもしれないけど、

 

猫派だし

焼き鳥は塩派だし

ラーメンの麺も細麺の方が好きだし

同じ喫煙者だし

趣味も合うし

裁縫できるし

話なんてほら、尽きないでしょ

 

私だったら仕事に口出ししないし

帰ってきたらご飯作ってあげられるし

 

合コン行ってもいいし

女友達と飲んでも何も言わないし

私もちゃんと稼ぐし

 

 

ね、だから、私にしとけば?

きっとうまくいくよ、私たち 。

 

私にしておきなよ、きっと、幸せにするから。

私にだけ、弱み見せてもいいから。

 

 

AM 2:17

「あ〜飲みすぎた〜。」

「部屋汚いけど適当に座って。」

「なんか飲む〜?」

「あ、私ほろよい。」

 

なーちゃんの彼氏とその友達と四人で飲んだ帰り、流れでなーちゃんの彼氏の家にみんなで行くことになった。

 

私はずっと酔わないように計算してちびちび飲んでいた。

 

なーちゃんの彼氏の友達はヒロって呼ばれていて、恐る恐る「ヒロさん?」って呼んだら「ヒロでいいよ」と綺麗な歯並びを見せられた。

 

なーちゃんとその彼氏はずっとラブラブしていて、私たち二人はどこか居心地の悪さを感じていた。

 

「ちょっと煙草。」

「あ、私も〜。」

 

ヒロが煙草を吸いにベランダに出たついでに私もついていった。

キャスター5ミリ。

 

「あ、一緒だ。」

「ほんとだ。煙草なんて吸うんだ。」

 

さっき店で吸ってたっけ?と突かれて少しだけドキッとした。頭いいんだな、となんとなく思った。

 

ベランダにはサンダルが一足しかなくて、それを二人で片足ずつつっかけた。

 

「このあとどうすんの〜?」

「終電なくなっちゃったし、どうしよっかな。」

 

ヒロも居心地の悪さを感じていることを確信していたから、わざとらしく困った表情をした。

 

「俺もどうしよっかな〜」

 

こういう時、男女は無言で駆け引きをする。

私たちは嘘つきだ。

 

部屋に戻るとなーちゃんと彼氏は寝ちゃっていて、私はちょっと残念だった。

 

このまま放っておいたまま、さすがに抜け出せないと思ったのか、私たちは片付けをして、寄り添って目を閉じた。

 

たぶんこのまま目が覚めて、連絡先も知らずに別れるだろう。でも、また会える。いつでもどこでも、気持ちは繋がっているんだから。

 

私は彼のSNSの画面を見ながら、微笑んだ。

 

おかえり

ただいま。

おかえり。ごはんいる?

今日は遅かったんだね。

 

「ああ、うん」と下手な濁し方をする彼を、嘘が下手だなあ、と思いながらそういうところも好きだなとか思ってみる。

 

夫婦なんて良く分からない。

あんなに舞い上がって提出した婚姻届も、今ではただの紙切れにしか思えない。

 

それでも私はやっぱり彼のことが、世界で一番好きだと思う。世界で一番彼のことを愛しているのは、私だ。

 

彼は私のことを世界で一番愛してはいないと思う。それでも彼は私のものだ。

ここにきて、あの紙切れ一枚が随分重いものに感じた。

 

ただいま、おかえりって言い合うだけでいい。

たまに連絡が返ってこなくても、平気だ。

私たちはもう恋人同士ではないのだから。

 

好きかどうかわからなくていい、情だと思われてもいい。

ずっと私に心配されていて。ずっと心配かけていて。

 

あの紙切れに書いてあった、妻という表現がくすぐったくて、思い出してずっとそわそわしていた頃は、幻だった。

 

薄れていく記憶の中で、彼のシャツから、知らない銘柄の煙草の匂いがして、目を閉じた。