二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

おかえり

ただいま。

おかえり。ごはんいる?

今日は遅かったんだね。

 

「ああ、うん」と下手な濁し方をする彼を、嘘が下手だなあ、と思いながらそういうところも好きだなとか思ってみる。

 

夫婦なんて良く分からない。

あんなに舞い上がって提出した婚姻届も、今ではただの紙切れにしか思えない。

 

それでも私はやっぱり彼のことが、世界で一番好きだと思う。世界で一番彼のことを愛しているのは、私だ。

 

彼は私のことを世界で一番愛してはいないと思う。それでも彼は私のものだ。

ここにきて、あの紙切れ一枚が随分重いものに感じた。

 

ただいま、おかえりって言い合うだけでいい。

たまに連絡が返ってこなくても、平気だ。

私たちはもう恋人同士ではないのだから。

 

好きかどうかわからなくていい、情だと思われてもいい。

ずっと私に心配されていて。ずっと心配かけていて。

 

あの紙切れに書いてあった、妻という表現がくすぐったくて、思い出してずっとそわそわしていた頃は、幻だった。

 

薄れていく記憶の中で、彼のシャツから、知らない銘柄の煙草の匂いがして、目を閉じた。

 

「憂、燦々」より

 

揺れる電車の中で二人並んで、ガラスに映る彼を見た。

たぶん、彼がいるのは、現実の私の隣なんかじゃなくって、ガラスの向こう側の私の隣だ、と思った。

 

そしたら急に不安になってしまって、振り返ったらちゃんと彼はビールを飲んでいた。

それが嬉しくって堪らなくなって、目をうるませたら、「なんで泣いてんの」とまた言われてしまった。

 

その時、さっきまで聴いていた、声が高いあのバンドの「離さないでいてくれるなら いつでも許してあげるから」という、超くだらない歌詞を思い出してしまって、今度はちゃんと涙が出た。

 

彼はもう呆れたようにため息をついて、またビールを飲み始めた。

底に沈む、もう浮き上がってこないビールの泡みたいな気持ちになって、しゅわしゅわした。

未だにビールは苦くて飲めない。

 

「ずっと傍にいて」なんて、ダサくて言えない。重いなんて思われたら、それこそ意味なくなってしまう。

 

あのバンドは今では結構有名になったな、とか思って、久しぶりに曲を聞いてみたら、やっぱりくだらなくて悲しくて、またこっそり泣いてたら、彼がふと私の頭を撫でて、聞こえるか聞こえないか微妙な声で「大丈夫だから」と言った。

いつの間にか、ビールの中身は無くなっていた。

 

 

一つになれないなら、せめて二人で居ようよ

 

 

壁の薄いアパートにて

これでもう、会うのは最後になるかもしれない

 

漠然とそう思った。

そう思ったら急に寂しくなってしまって、

一緒に並んで寝ていてもどこか遠くにいるように感じて、無性に涙が出た。

 

出会いがあったということは、必ず別れも来る。わかってはいたけれど、早かった。

私は彼に布団をすべてかけた。震えるほど寒くなっても、こうしていたかった。

彼に全部尽くしてきた。

やれるだけのことはやったし、今更後悔なんてない。

 

だけど、

 

彼のことを一番好きだったのは私だったし、大切にしていたのも、尽くしてあげたのも、辛い時に優しい声をかけてあげたのも私だった。

私だったはずなのに。

 

彼は私が尽くす度に離れていくような気がした。

 

振られるくらいなら、自分から居なくなった方がマシだ。嬉しかった合鍵も、一緒に飲んだ苦いコーヒーも、イルミネーションも、あの路地裏にあるラーメンも、全部、忘れよう。

 

結婚すると思っていた。

結婚するってどういうことだったんだろう。

 

私は声を殺して泣き、苦しくなりながら、

彼に気付かれないように、キスをした。

 

最後の最後まで、強がってごめんね。さようなら。

 

大丈夫、

きっと全部、愛おしかったものすらも忘れられる。だって彼は愛おしいなんて思っていなかっただろうから、たぶん。

 

大丈夫、大丈夫だよ

視界が歪むなか、私はコートとバッグを手に取り、合鍵をポストに入れ、静かに居なくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居なくなっていた。

朝起きたら、何かが変わっていた。

 

足りないものが幾つかある。それにすぐ気づいた。

もしかしたら、と思っていたけど、こんなに早くなるとは。ポストを開けたら、やっぱり合鍵はあって、合鍵に付いていた、ダサいキーホルダーは居なくなっていた。

 

薄々気づいてた。でもそれがプレッシャーだった。

 

でも、こんなに寂しいと思っているのは自分でも意外だった。

 

これからどうやってこの穴を埋めようか。

どうやったら君のシャンプーの匂いが思い出せなくなるようになるのか。

 

考えながらベッドに横になった時、もう二度とわからなくなってしまうだろう君の髪の匂いがした。

 

 

渇望

溢れてしまった。

生きててたまにある、絶望感。

 

私はいつも自分の感情に蓋をして、

いつも誰にも見せないように、

見せるふりして繕って、隠してきた。

 

その人を信用していない、といえばそうなのかもしれない。私は親のことも友達のことも、好きな人のことも、信用していないのかもしれない。人の気持ちなんてわからない。

 

自分の気持ちは自分にしかわからない。

自分のキャパは自分にしかわからない。

 

自分からSOSを出さないと、いつか溢れることはずっと前からわかっているのに、もう癖になって、それはいつか私を苦しめていた。

 

吐き出せなかった、どうしても。

自分の弱いところを見せたところで、何も変わらないことを知っていた、自分に絶望して欲しくなかった。私はいつも、私であろうとしていた。

 

その結果、すべての怒りや悲しみ、それらの負の感情が大きくなりすぎ、中身が段々と溢れていく。

 

中身を移し替える余裕もなく、ボロボロとだらしなくこぼれていき、やっと蓋がしまるくらいになったときには、私はもう全てを諦め、絶望し、目には光がなくなっていた。

 

私はいつもこうなってしまう。

両親に心配はかけたくない、友達や好きな人に重いと思われたくない、いつもの私でいなければいけない。

 

だからもしこうなったとき、誰も気づいてはくれないのだ。

 

その時私は、独りだったのだとまた絶望する。

 

自分の人生の絶望は、自分自身で救うしかない。誰も気づいてはくれない。助けてはくれない。

 

独りでも生きていけるようになりたい。

 

そして私はまた、詰め放題の時のビニール袋みたいに、指でぎゅうぎゅう引き伸ばしながら、明日からも生きていくんだろう。

 

途中でちぎれても、もうそこには誰もいない。

 

私はただ、抱きしめてほしいだけだった。

 

 

喫茶店

人ってなんの確証もないのに、ああ私この人と付き合うんだろうな、とか、何の不満もないのにこの人と別れちゃうんだろうなって感じる。

そういう時ばかり、勘が働く。

 

だからあの時も、最後の最後まで強がって平気なふりをした。というより、本当に平気だったのかもしれない。

 

別れを告げられた時も、平気な顔で二つ返事した。その後すぐにどちらが引っ越すか、とすぐに現実的な会話までした。

 

それでも安定したものが崩れてしまうのは、怖く、寂しかった。一人から、独りになってしまうことも、これからは一人分の生活費しか稼がなくていいということも。

 

私は別にこのままでもよかったのに。

私は不満なんて、何一つなかったのに。

 

「じゃあ、私このあと約束あるから、先行くね。」

「この前言ってた子?」

「よく覚えてるね、そうその子。あっお金......」

「いいよいいよ、最後くらい払わせてよ。」

「......そう?じゃあ、お言葉に甘えて。」

 

「ありがとう、ご馳走さま。それと、元気でね。」

 

軽く手を振って彼女を見送ったとき、最後はもう小走りになっていた。追いかけようかとも思ったけど、やめた。

たぶん、約束があるのというのは嘘だ。

 

彼女はいつも感情を僕に見せない。

見せないようにいろんな嘘をついてきて、僕もその嘘に何回も乗っかってきた。たぶん、もっと感情を出してあげればよかったんだと思う。

 

それとも、

僕がバンドをやめればよかったのかな。普通に会社員をしていたら、彼女が泣く時に嘘をつく癖は直ったのだろうか。

 

僕もこのままでもよかった。でも、これは、

僕なりのけじめだ。

 

僕は彼女が居なくなった向かい側の席を見つめて、小さく、泣いた。

 

 

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下書き 1件

もうね、本当に君のことなんてどうでもいいんだよ。

 

強がりじゃなくって、本当にね。

私ってさ、ほら、すぐ白黒つけたがるじゃない?だからさ、今もずっと実はもやもやしてて、でもね、もういいんだよ。

 

本当に君のことなんて、どうでもいいんだよ。

結局君のことなんて、好きじゃなかったのかもしれないね。

ずっと犬みたいにお座りして待ってて。

いい子にしてるんだよって、いつまで待たせんだよ。

私は犬じゃないからね、そんなに待てないんだよ。馬鹿みたく涎を垂らして。目の前のご馳走にいつまでも目を輝かせているのも、もう疲れちゃった。

 

いいでしょう?それでも君は。

別にいいと思ってるんでしょう?

 

だったらそれで。はい、じゃあ割り勘ね。

あーああ、死ぬほど馬鹿らしい。

反吐が出る。

 

ダメだったら別の探せばいいや、なんて

そうやって生きてるから妥協した人生になっちゃうんだよ。一生そうして暮らしてなよ。一生そうして、本当に大切なものなんかなくなったって、平気でしょう?また探せばいいじゃない。 

一生そうして死ぬ間際に後悔しなよ。

クダバレ。アーメン。

 

 

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件名:無題

本文:お疲れ様!いつ帰ってくるの〜?

もう、返信くらい頂戴よね( ˊᵕˋ )?

 

END

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「私たちももう、終わりだね。」

 

スーパーと君と缶ビール

今日も帰りに近くのスーパーで、

半額になったお弁当を買って、

何もしてないけど御褒美の缶ビールを買う。

 

帰りに缶ビールをフライングしながら

君のことを考えていた

君にずっと後悔していた

 

先のことなんてわからないよねって

言わせるなよ言わないでよ

 

君には何も言えなかった

僕は定価じゃなかった

君に何もしなかった

僕はずっと半額以下だった

 

今日も特に何もしてないし

君の部屋の間取りを数えたりして

また戻ったり浮遊したりして

 

私たち、もういいでしょ?って

あっさりしてるんだな

 

僕は君の何だったんだよ

君は僕にとっての何だ

僕は君に溺れていたんだ

君の心のプールに浸る

 

愛してる会いたい寂しい馬鹿らしい

君しか居ないなんて嘘だよ

 

わかってはいるんだよ

でも君に期待しているんだよ

 

でも僕は君だと半額だ

わかるだろう?