二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

おかえり

ただいま。

おかえり。ごはんいる?

今日は遅かったんだね。

 

「ああ、うん」と下手な濁し方をする彼を、嘘が下手だなあ、と思いながらそういうところも好きだなとか思ってみる。

 

夫婦なんて良く分からない。

あんなに舞い上がって提出した婚姻届も、今ではただの紙切れにしか思えない。

 

それでも私はやっぱり彼のことが、世界で一番好きだと思う。世界で一番彼のことを愛しているのは、私だ。

 

彼は私のことを世界で一番愛してはいないと思う。それでも彼は私のものだ。

ここにきて、あの紙切れ一枚が随分重いものに感じた。

 

ただいま、おかえりって言い合うだけでいい。

たまに連絡が返ってこなくても、平気だ。

私たちはもう恋人同士ではないのだから。

 

好きかどうかわからなくていい、情だと思われてもいい。

ずっと私に心配されていて。ずっと心配かけていて。

 

あの紙切れに書いてあった、妻という表現がくすぐったくて、思い出してずっとそわそわしていた頃は、幻だった。

 

薄れていく記憶の中で、彼のシャツから、知らない銘柄の煙草の匂いがして、目を閉じた。