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二人の映画に乾杯を

タイトルはMy Hair is Badの「悪い癖」から。

距離感


揺れる揺れる電車の中で、私は嫉妬した。
名前も顔も知らない、女の子に嫉妬した。

その時に咄嗟に嘘が言えなくて、愛想笑いをしてしまった。どうせ笑うなら、可愛い笑顔を作ればよかった、と少し後悔した。

私は本当にずるい人間だから、
君が思っているその知らない女の子なんか居なくなればいいと思った。元々存在なんかしないのに。

君が私を見つけてイヤホンを外す瞬間が好きだった。
首をちょっと曲げてイヤホンを外したときの瞬間を、その瞬間を止めて、静止画でずっと見ていたいと思った。

人懐っこく笑うその笑顔がずっと見たくて、
普段使わない頭をフル回転させて楽しい話題を出し続けたら筋肉痛になった。

心臓の音が聞こえないように電車の振動と一緒に揺れた。
ふんわりしたいい匂いが纏ってるベールの中に私は入り込むように近づいた。自分から近づいておいて、顔が近くなってしまっても、平然を装った。

君が今度目の前で煙草吸ってよ、なんて言うから、私は強がって、タイミングが合えばね、なんて言ってしまったけど、その時は本当に肺に穴が空いてもいい、なんて考えてしまった。

きっとその穴は、埋まるから。
そんなちっぽけな穴なんか、埋めてくれるよね?

いつも通り最寄り駅で手を振って、
我に返った後で、水族館に誘うことを忘れてしまったことを思いだした。

でも、それでもずっとこれが続いたらいい。

水族館にずっと誘えないままがいい。
電車の中で話を考えすぎて筋肉痛になるくらいがいい。
君のことを考えながら慣れない料理を作るのがいい。

好きな人ができたら優しくなれるから、
恋人になったら卑屈になってしまうから、
もうしばらくはこのままで。