彼女
「煙草にね、口紅がつくでしょう。それが好きなの。」と彼女は言った。
私は、くだらない、と思いながら真っ赤に染めた唇で煙草を吸っていた。
その夜に、爪を塗った。
安っぽい赤に染まった足の爪は、まるで自分の価値の無さを表しているようで、つらくなったのですぐ靴下を履いた。
服を買った。
服を買う度に、高い服を身に纏うことでしか自分を保てない自分の脆さに嘲笑した。
簡単に崩れてしまうものばかりだ。
積み上げていくのは大変でとてもとても時間がかかるのに、すべて脆い。
彼女には勝てない。いや、
勝ち負けなのかもわからないけれど、勝てない、と漠然と感じてしまうほど、彼女は完璧だった。
綺麗な横顔と煙草が良く似合っていた。
煙に巻かれた彼女の表情を一瞬たりとも逃したことは無い。
彼女は何処にいるのだろう。私はまた、彼女の言葉にくだらないと思いながら憧れるのだろうか。彼女みたく口を赤く染めて、彼女みたく煙草にキスをするのだろうか。
彼女はいま、何処にいるのだろうか。